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大阪地方裁判所 平成7年(行ウ)88号 判決

大阪市中央区道修町二丁目二番一号

原告

平野町薬品株式会社

右代表者代表取締役

今西収

大阪市中央区大手前一丁目五番六三号

被告

東税務署長 丸崎邦夫

右指定代理人

塚原聡

桑名義信

小富士晋一

檜原一

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一事件の概要

一  本件は、平成六年八月二二日付けで被告がした原告の昭和六一年六月二六日から昭和六二年六月二五日までの事業年度(以下「昭和六二年六月期」という。)及び昭和六二年六月二六日から昭和六三年六月二五日までの事業年度(以下「昭和六三年六月期」という。)の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)は、十分な調査もせずに原告がイヌイ株式会社(以下「相手会社」という。)に所有不動産の一部を一七〇〇万円で譲渡したという誤った事実を認定して行った違法なものであるとして、その取消しを求めたものである。

二  争いのない前提事実

1  原告は、医薬品卸売業を営む青色申告法人である。

2  被告は、平成六年八月二二日付けで本件処分をし、原告は、同月二三日、本件処分の通知書を受け取った。

3  原告は、被告に対し、平成七年三月一五日、本件処分について異議申立てをしたが、被告は、平成七年四月一二日付けで、右申立てが異議申立期間経過後に提出されたことを理由に、右申立てを却下する旨の決定をした。

4  原告は、平成七年五月一〇日、本件処分のうち昭和六二年六月期の部分の取消しを求め、国税不服審判所長に審査請求をしたが、平成七年九月一八日付けで、異議申立てが不適法である以上、審査請求も不適法であるとして、右審査請求は却下された。

5  原告は、平成七年一二月二五日、大阪地方裁判所に本件訴えを提起した。

第二主な問題点

一  本件処分に対する異議申立てが法定の異議申立期間内にされたかどうか

二  (右期間内に異議申立てがなかったとして、そのことに)やむを得ない理由があったかどうか

三  原告が、昭和六二年六月期に、その所有する土地の一部を一七〇〇万円で譲渡したかどうか

四  被告が、相手会社からの訂正文書(甲二)の正否を確認するために相手会社を呼び出したり、調査をしたりしたかどうか

第三争点に対する判断

一  本件処分に対する異議申立てが法定の異議申立期間内にされたかどうか

1  原告が取消しを求める法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分は、異議申立てについての決定、審査請求についての裁決を経た後でなければ提起することができず(行政事件訴訟法八条一項ただし書き、国税通則法一一五条一項)、これらの行政処分についての異議申立てはその処分があったことを知った日(処分の通知を受けた場合はその受けた日)から二か月以内にしなければならない(同法七七条一項)。

2  前記争いのない事実によると、原告が本件処分の通知書を受け取ったのは、処分の翌日である平成六年八月二三日であり、本件処分についての異議申立書を被告に提出したのは、その翌日から起算して六か月以上も後の平成七年三月一五日である。

3  したがって、原告の異議申立ては、処分の通知を受け取った日から二か月以内という法定の異議申立期間(以下、単に「法定の期間」という。)内にされたということはできない。

二  法定の期間内に異議申立てがなかったことに、やむを得ない理由があったかどうか

1  法定の期間内に異議申立てがなかったとしても、そのことに、天災その他やむを得ない理由があるときは、その理由がなくなった日の翌日から七日以内に異議申立てをすることができる(国税通則法七七条三項)。

2  原告は、本件において法定の期間内に異議申立てができなかったやむを得ない理由について、概ね次のとおり主張する。

もう一度調査をして、納得できるような課税をしてもらうため、本件に関する調査があったころの国税局調査部統括官で現在梅田で弁護士をしている井上次郎(以下「井上」という。)の現住所を探し、平成七年三月初めころ(原告が異議申立書を提出した平成七年三月一五日の二週間くらい前)に井上に面会して当時の事情を聞き、本件の調査を依頼したが、五年以上も前のことであるなどで調査に日数がかかり、井上からの回答が遅れたため、やむなく提出期限が切れてしまった。

3  しかし、そもそも、原告が井上に調査を依頼した平成七年三月初めころには、既に法定の期間を経過していたのが明らかであるから、井上の回答が遅れたことと法定の期間内に異議申立てができなかったこととの間には、何ら因果関係はなく、井上の回答が遅れたことをもってやむを得ない理由といえないのはいうまでもない。

また、所有土地の一部を一七〇〇万円で譲渡したことがないというのであれば(このこと自体は、契約当事者とされている原告において、容易に知ることができるはずの事柄である。)、税務調査の経緯や、どこで間違いが生じたかなどについて熟知していなくても、それだけで、本件処分について異議申立てをすることができるのであり、原告がこのような調査に時間を費やしたとしても、これをもって、天災に準ずるようなやむを得ない理由があったということは到底できず、他に、やむを得ない理由があったと認めるに足りる証拠はない。

4  したがって、本件について、原告が法定の期間内に異議の申立てをしなかったことに、やむを得ない理由があったということはできない。

第四  よって、原告の訴えは、適法な異議申立てを経ない不適法なものである。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 北川和郎 裁判官 小林康彦)

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